山中 弘総合学域群長

専門分野について、教えてください。
私の専門は宗教学、特に宗教社会学という分野です。宗教を研究するアプローチは非常に多様で、哲学から社会科学まで様々なものがありますが、私は、近代以降の宗教変化に注目しています。特に、今日、宗教のあり方の変化に大きな影響を持っているものとして「メディア」があるのではないかと考えて、宗教とメディアの関係について興味を持っています。
西欧のキリスト教の歴史を振り返っても、メディアが大きな影響を与えたことがわかります。中世の宗教を独占的に支配していたキリスト教が劇的に変化するのはルターによる宗教改革からですが、彼の思想をヨーロッパ全体に広く普及させたのはグーテンベルクの活版印刷の発明が挙げられます。この発明によって簡単に大量の印刷が可能となり、ルターのプロテスタントが爆発的にヨーロッパ中に広まることを技術的に支えました。

さて、今日、インターネットなど現代の情報技術の驚異的な発展は、社会全体の空間、時間のこれまでの常識を根本的に変化させるとともに、コミュニケーションや自己表現のあり方を含めて我々の生活スタイルそのものに大きな影響を与えています。このことは、スマホなどSNSが単なる通信手段以上の意味をもっていることを考えればわかると思いますし、こうした変化は、当然のことながら宗教のあり方にも大きな質的な変化をもたらしています。宗教の領域では、組織に支えられた伝統宗教離れが進んでいます。有名寺院は別として地域の小さな仏教寺院、神社は、それらを支えてきた共同体や人々の高齢化や転出によって消滅の危機に晒されていることが指摘されています。

ところが、宗教は消えてなくなっているかと言えば、そうではありません。私たちの周りを見渡せば、パワースポット、霊能者の江原啓之のスピリチュアルカウンセリング、聖地サンティアゴ・コンポステーラへの巡礼、仏像ブーム、ヨガやマインドフルネスなど、手軽に実践でき、遊びの要素も含んだ「軽い宗教」への興味はむしろ強くなっているようにみえます。そして、これらの流行に今日のSNSなどのメディアの存在はなくてはならないものですし、宗教のあり方そのものが、これらのメディアに適合的に変化してきているように思われるわけです。宗教社会学では、今日のこうした状況を「宗教」という言葉ではなく、「スピリチュアリティ」という言葉で表現することも多く、欧米では「スピリチュアルだが、宗教的ではない」(spiritual, but not religious)と語る人々が増えているといわれます。
筑波大学の魅力について、教えてください。
筑波大学の特徴は、学類間の履修上の壁が比較的低いために学生が様々な専門領域に接することができるという「学際性」と、各国からの留学生が数多く学んでいるという「国際性」にあると思っています。このうち、総合学域群は、学際性のメリットをさらに拡張し、入学時には特定の学類に所属することなく、自分の関心に基づいて文系、理系を超えた幅広い履修ができるようになっています。こうした組織が設立できたのも、筑波大学が総合大学として様々な分野で第一線の研究者たちを擁しているからですし、多様な教育的資源を有していることこそが筑波大学の最大の魅力だと思っています。
総合学域群長 山中 弘
  • 写真:上野 修平 /筑波大生デジタルフォトコンテスト