野口 恵美子総合学域群長特別補佐

専門分野について教えてください。
私はもともと小児科医師で、大学院に入学してからゲノム医学を専攻し、研究がかなり面白くなって基礎医学とゲノム医学に進み、今では主にアレルギーの研究をしています。医師の道を目指した理由は、自分が子どもの頃、ひどい喘息持ちだったからです。治療薬も良いものがあまり無かった時代で、7回ぐらい入院したこともありました。当時は千葉県に住んでいて、近くの病院では治療ができず、親に何度も東京の有名な病院まで連れていってもらっていました。それが子ども心にすごく悲しかったことがありますが、真摯に治療してくれている先生や看護師さんを見て、自分も医師になりたいと思うようになりました。
専門分野以外に必要と感じている素養について、教えてください。
医師という職業は、治療が大きな目的です。例えば手術などの技術ももちろん必要ですが、患者さんと接して適切なコミュニケーションができないと治療自体がうまくいかないことがあります。一見簡単そうに思えますが、患者さんの考え方や価値観は千差万別で、汲み取ることは容易ではありません。意見や気持ちなどを受け止め、取り入れるような能力、いわゆる傾聴だと思いますが、そうした部分には心理学の分野の素養が必要と思っています。
今はゲノムの研究をしいて、遺伝診療部の部長として診療をしています。遺伝解析の結果、投薬可能な種類が判明することもありますが、一方で将来の病気が判明することもあります。倫理的にも慎重にならざるを得ないものですので、研究の説明、承認、患者さんへの説明などの度に何度もミーティングを行っています。それだけでもいかに患者さんの気持ちを汲んで治療行為にあたる必要があるか、わかりますでしょうか。
 最近では、業務に付随して日程調整や書類作成などの事務作業も増加しています。面白いと思うのが、こうした作業をソフトウェアやアプリを使って自動化していくと、目に見えて業務が改善されていくことです。本当は情報系が向いているのかなと今でも思うことがあります。
筑波大学の魅力について、教えてください。
正直にいうと、自分にゲノムの研究分野がフィットするとは思っていませんでした。小児科医の時代に自分の道に迷っていたことがあって、たまたま隣のラボの先生がゲノムの先生だったんです。私がいつも夜遅くまで実験してたので、研究やってみませんか?と誘われて試しにやってみたら、たまたまヒットしました。いま考えてみると自分は統計学的な解析が好きだったのかなと思います。筑波大学にはそうした幅があります。学問分野には、芸術や体育まであるわけです。今は昔と比べて何が劇的に違うかというと、インターネットから情報を得ることができるだと思います。ただ、これは自分から興味をもって自発的に調べた情報しか得られないし、個人のアクセス履歴を解析して提案された情報が多く出てきます。一見インターネットで視野が広がったように見えても、実は調べるほど視野は狭まっているという結果も考えられるわけです。そんな時代だからこそ、筑波大学の総合学域群のように強制的にでも色々な分野があることを知らせてもらえる場は貴重ではないかと思います。選択の幅を広げる意味でも、色々なチャンネルを持つことは大切です。大学の先生にはいろんな人がいるので、そういう人たちの話を聞けるような機会を有効活用してもらえると、自分でも気づかなかったような、フィットするものが必ず見つかると思います。
総合学域群は新しい選択肢です。色々な分野の色々なものに出会えるのはほかの学類ではなかなか体験できないことだと思いますので、ぜひ皆さん、受験するようにしていただければとても嬉しいです。お待ちしています。
総合学域群長特別補佐 野口 恵美子
  • 写真:上野 修平 /筑波大生デジタルフォトコンテスト