加藤 誠図書館情報メディア系  准教授

まず、主な研究分野を教えてください。
私は情報検索という研究分野を扱っています。たとえば、皆さんはインターネットで情報を検索するときに何かしらの検索サイトを使いますよね?飲食店のランキングサイトやECサイトでも検索を使うと思います。こうした検索の技術について研究をしています。もっと言うと、ランキングをどういう順番で並び替えるか、キーワードを入力した時に1番上に出てくるものはどういうものがふさわしいのか、どういうユーザーがどういう検索行動をするのかなどを研究しています。検索で何を上位に出すべきなのかを決めるのは難しいのですが、ユーザーがクリックした内容によって、ユーザーが求めている情報が何となく分かりますので、そうした内容をうまく学習して、より良い結果を上位に出すアルゴリズムに変えていくことが今のトレンドになっています。
情報検索の分野を深く研究したいと思ったきっかけを教えてください。
皆さんの世代にも通じることかもしれませんが、人工知能への強い憧れがきっかけかなと思います。ロボットが知能を持っているって、単純にすごいと思っていましたので、いずれは賢いシステムを作りたいと思っていました。ただ、大学4年生ぐらいの研究室配属のとき、『検索システム』というのがものすごく賢いシステムだったということを当時聞きました。キーワードから欲しい情報を予測して、コンテンツの中身を理解して人に提供できるって、人間よりも賢いと思いませんか?別に人工知能ではなくとも、すごく良い検索結果をシステムが提供できるのであれば人工知能並みに賢いものが作れるのではないかと思ってこの研究分野に進みました。
今まで先生が研究してきた中で一番やりがいを感じた研究を教えてください。
数式に基づいたアルゴリズムによって検索システムを構築するのですが、実際に検証して見ないとうまく動作するかはわかりません。ユーザーの情報や、場所の情報を活用したり、ベクトルの内積とかスコアの計算をしてスコア順に並べたりといったような、数学の問題を解くように並び替えるべきものを評価していきます。自分の考えたアイデアを検証して想像どおりの結果が出てくると最高に楽しくて、良かったと感じます。
先生の研究分野を、組み合わせたら面白くなるのではないかと思えるような他の分野があれば教えてください。
ひとつは、2016年に行った研究で、被験者にノーベル賞受賞などのニュース記事を見せて、その記事を検索してもらう実験をしました。実験初日では被験者はよく覚えているのでうまくいくのですが、2週間たって同じ記事を検索してもらう実験をすると、名前が違ったり賞の分野が間違って入力されたりとか勘違いして入力してしまうことがあります。特にご高齢な方ですと、固有名詞は覚えてられないとか、ニュース中の単語を同じような単語に置き換えて検索してしまうといった結果が出ていました。そのような間違いを起こす事象の解明には心理的なアプローチが必要になりますので、心理学が必要ですね。過去の関連する研究を引用しながら実験結果を議論したのですが、半分ぐらいが心理学の分野の論文でした。
もうひとつは失敗に終わってしまったのですが、脳波を使った『推薦』を試みていました。推薦って何かというと、動画投稿サイトなどでお勧めの動画が出てきますよね?あれが推薦です。推薦のアルゴリズムって、基本的には同じ好みの人同士の趣向から予測して推薦結果を提供していますが、人間の脳波の反応から推薦をする仕組みを構築できないかと思いました。脳波を測って好みを推測して、類似するユーザーの好きな音楽を推薦できるのではないかと思ってですね。そのためにfMRIという脳の活動を測る機器を使って、音楽を聴かせた時の反応を見てみようと思いました。結果としてはfMRIって凄くうるさくて、機器の稼働している音で全然音楽が聴こえなくて、脳波がうまく取れずに失敗に終わってしまいました。
筑波大学の研究や施設など、好きなところがあれば教えてください。
春日キャンパスって本部や主要なキャンパスと隔離されていて、秘密基地のような感じがあって個人的に好きです。これに納得してくれる人はあまりいないですね。もう少し真面目な話をすると、情報検索の研究者って日本も海外でもそれほど多くはいません。情報検索の研究をしている研究者を、SIGIR(Special Interest Group on Information Retrieval)という学会で 3回以上の発表実績があるという条件で検索すると、日本人では数えるくらいしか該当しません。私も含め、筑波大学には該当する人が3人もいる。しかも全員同じ学類です。やはり議論もしやすいですし、研究も進みます。情報系の中でも検索技術に興味がある人は、日本中で多分どこを探しても思い当たらないような環境ではないかなと思います。
知識情報・図書館学類の魅力を教えてください。
『図書館』という名前を見たとおり、図書館について研究されている方とか、図書館に関する授業は多いです。一方で図書館の捉え方ですが、人に情報を伝える情報を次世代につないでいく装置、もしくは、公共サービスとして一般の市民の方々が知識を得られるような施設だと思います。人にどうやって知識を伝達していくかという社会的な機能を考えると、実はウェブ検索とか推薦システムというのも、ある側面では図書館みたいなものですよね。そういう意味では、図書館という単語はもっと広い意味を持っています。これが知識情報と組み合わせると、知識をどうやって伝えるか、『検索』においては、欲しい情報がある人にどうやってその情報を伝えるか、『推薦』においては、人が好きそうなコンテンツをどうやって提供するかというテーマにつながります。そのため、知識の伝達に興味がある人にはぜひ来てもらうといいかなと思っています。
先生と同じような分野に興味を持っている学生に向けてメッセージをください。
情報系でIT技術やAIに関わりたいのであれば、基礎が大切です。数学やアルゴリズムなどをよく活用するので、1年生の皆さんが今履修しているような科目が非常に重要になります。準備期間だと思って頑張ってください。また、知識情報・図書館学類は広い分野を対象にした学類です。知識は色々な分野に関係しますので、1年生の間に幅広く学んでおくといいのかなと思います。

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図書館情報メディア系 准教授 加藤誠  (インタビュー学生と撮影)
図書館情報メディア系  准教授 加藤 誠
  • 写真:上野 修平 /筑波大生デジタルフォトコンテスト