谷口 綾子システム情報系 教授

まず、主な研究分野を教えてください。
都市計画に心理学を応用した研究をしています。都市計画と心理学って、一見関連がなさそうに思えるかもしれませんが、都市問題の多くは人の行動に起因しています。人の行動はその人の意識、心理の影響を受けますので、心理学は直接使えるツールなのです。例えば車ばかり使っていると渋滞が起きたり、中心市街地に行く人が減ったり、健康の問題が起きたりします。そういった問題を最小限にするため、自発的に行動変容してもらうための仕組みなども研究しています。
研究者を目指すきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
博士の学位を取る前に民間のコンサルにいたのですが、研究者になりたいと思ってはいませんでした。むしろ狭い世界に閉じ込められる感じがイヤでした。与えられた環境でそのとき為すべきことを必死にこなして、成り行きでここにいます。自分が研究に向いてるのかもって思い始めたのは数年前でしたね。自分の体験や経験などから直感的に出てきたリサーチクエスチョンや仮説を検証してみると、それが正しかったり、誰も研究していなかったところだったり、元上司から指摘されたことではありますが、そうした勘が研究者に向いているのかなと思うところですね。おかげさまで今、研究はとても楽しく充実しています。
民間企業での仕事の面白さを教えてください。
民間のコンサル会社では、道路・交通計画とか交通事故削減のための道路交通施策などに関する仕事を担当していました。国や市役所からの受注がほとんどでして、テーマはあらかじめ決められていましたが、その範囲内で高い自由度があったことが楽しかったですね。自分なりに仮説を立てて、調査手法を工夫して結果を出して、クライアントに提案するというサイクルになります。明確なゴールがありますし、クライアントが喜んでくれるのでやりがいがありました。
研究を進めていく上で、「こんな分野の素養が欲しい」と思うことはありますか。
最近ですと心理学、法学、倫理学の研究者の方々とは頻繁に協働しています。月に1、2回程度程、研究会でディスカッションをしています。その他、今後は社会学系の方とコラボしたいですね。
社会工学類とは言え、文系の素養は必要です。社会学と社会工学って、どう違うんですか?ってよく聞かれますが、全く違います。社会学というのは、言ってみれば社会現象を研究対象とし、それを「記述」することに主眼を置きます。デュルケムの自殺論とか、統計などを見て考察するものもあります。一方、社会工学類では社会問題やメカニズムを工学的観点、数理的なアプローチで捉え、その解決策を模索し、提案するところまでを対象としています。私達のような工学系の研究者は将来の社会を具体的にどう善くするかを考えます。この道路を作ったらどうなるかとか、どうやったら中心市街地が活性化するかといった、将来の話ですね。でも道路やまちを作るとき、例えばそこに遺跡があったらそれを無視することはできませんし、そこの近隣に住んでいた人にとっては、すごく神聖な場所だったかもしれません。より良い社会を作るには、当然ですが、文化や歴史を踏まえる必要があると思っています。
先生の私見で、例えばつくば市の交通ついて思うことなどはありますでしょうか。
まず、つくば市内で一番行き来する人が多い目的地は、筑波大学です。病院もありますし。あと多いのが筑波山です。観光目的の人がつくば駅に着いて、「で、筑波山はどこ?」って探したときに、『駅から1時間くらいバスに乗ることを知って愕然とした』という話をよく聞きます。そうした主要な目的地にいわゆる大量輸送機関、つまり鉄道や路面電車があれば、渋滞も減るし移動がより便利になると思います。これは十数年前につくば駅に来る人を対象に「目的地」をアンケートで調べたデータが元になっており、まずは現状を把握する調査と分析が必要です。そのデータをベースにしつつ様々な立場の人の考えを聞いて、つくばの交通をどうするべきかを考えるのです。
社会工学類の魅力を教えてください。
社会工学類は建築や造園、緑地など工学系だけでなく、経済学、心理学、経営学、物理学や会計学など多種多様な教員が在籍しています。社会を大きく研究対象とするにしても、人々にどのように行動変容してもらうか、どうコミュニケーションするかといった文系的な側面と、私のような土木も含めた理系、工学系がモデルを作って定量的に評価するという側面で構成されていて、筑波大学の「学際」の最たるものかなと思っています。教員はみなさん違う分野ですが、仲が良いです。お互いの専門分野をリスペクトしているのだと思います。それって個人的にも本当にすごいことだと思っています。
学生に向けてメッセージをお願いします。
色々な「本物」に触れてほしいと思います。例えば、先日コロナ禍が一段落していたのでパリ、ロンドンに行ってきました。現地の交通環境や人々の振る舞いを観察しましたが、インターネットニュースや文献や地図で見るのと現実は全然違います。頭の中だけで考えても的外れなことも多いので、実際に行って、体験してみて、現地の人の話を聞いて、それを基にして自分で考えると。そういうことは学生のうちにやっておくと良いと思います。大人になると忙しくてできなくなりますので。
あとは、目の前のやるべきことをきちんとやっておく。学生さんの目の前のこととしては、当たり前ですが、講義の予習をして講義に出て、復習して、試験を受けて単位を取ることです。他にもサークル活動や部活を一生懸命やって、友達や、彼氏彼女と遊びに行くとか、そういう学生っぽいことをちゃんと学生のうちにやっておいてほしいと思います。自分自身の学生時代を振り返ると、アルバイトしたり皆でドライブに行ったり、さんざん遊んだ記憶がありますが、古典の本をもっとじっくり読んでおけばよかったと後悔もあります。人生一度きりですし、その時にしかできないことがありますので、ぜひ学生生活を充実させて欲しいですね。

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システム情報系 教授 谷口綾子
システム情報系 教授 谷口 綾子
  • 写真:上野 修平 /筑波大生デジタルフォトコンテスト